現在のいわゆる「インプラント」は、「入れ歯」の一種に過ぎま

せん。


  それも医学的には問題だらけの入れ歯です。決してご自分の歯に換わる「第三の歯」などではありませんし、再生をしているわけでもありません。当院では下記のような理由により、また患者さんに将来起こりうるトラブルなどを考慮し、現在のところ、

歯を失った部分を補う(欠損補綴の)ための、インプラント埋入

術は行っておりませんし、推奨もしておりません。



なぜならば私はインプラントに賛成(推進)とか反対とかを言う以前に、

インプラントを入れる行為そのものが、病気を治すという、本来

の意味での治療とは言えないのではないか? 


という疑問を持っているからです。もう一つの理由は、もしインプラントを入れた後、そのインプラントを、口腔内で完全に健康な状態で維持できる自信が今の私にはないからです。インプラントを入れたからといってむし歯や歯周病が治るわけではありませんし、それどころかインプラント周囲炎(インプラント版歯周病)という新たな病気を創り出してしまうという、今のインプラント自体に避けられないリスクが存在するわけですから、歯をなくした後にいわば「仕方なく」行うという感覚が必要です。ですからインプラントについては、しないで済むならそれに越したことはないですし、将来的にはなくなってしかるべきものと考えます。また歯を失った際の、機能回復の選択肢としても、決して第一選択として考えたり、あるいは患者さんに最初にすすめる方法であってはならないと考えています。できるだけ歯や口腔の健康を守れる方法を選択するべきだと思います。


  もちろん、私自身も入れてほしいとは思いませんし、家族や親戚にすすめることもありません。
 


1.インプラントの問題点と、インプラントについての当院の考え方

  私(院長)自身、症例数としては決して多くはありませんが、過去にインプラント埋入手術、および除去手術の両方を行った経験があります。インプラントを埋め込む(埋入)手術自体は、骨の量が十分なら、自分の親知らずを移植するよりも簡単な手術です。無論、基礎疾患のコントロールが不十分であったり、残っている歯に歯周病があったり、骨の量が不十分なところに無理をしてインプラントを埋め込むことはより大きなリスクを伴うことになります。また、インプラントは体内に異常な電流を発生させたり、有害な電磁波のアンテナになってしまうなどのリスクがあることも知られています。さらに、脳血管疾患等で頭部MRI検査を行う必要がある際や、将来的に何らかの不具合や、要介護状態になり口腔ケアが十分に行えなくなった場合等により除去手術が必要になることもあり、その場合には患者さんに多大な負担がかかる可能性がございます。
  さらにインプラントのもう一つの問題点として、インプラントがご自分の歯とは異なり、歯根膜(詳しくは「一般歯科・小児歯科」の中の「歯の基礎構造」をご参照下さい。)という、咬んだ時の力(最大で1平方センチあたり60kg以上もの力がかかります。)を和らげる、いわばクッションとなる組織を介さずに、あごの骨と直接結合していることです。喩えて言うならば皮膚に針がささったままの病的な状態をお考えいただければわかりやすいでしょう。たとえ臨床的に自覚症状がなく、不自由なく物をかめていたとしても、組織学的には病的な反応が起きていることもわかっており、


病理組織学的に(顕微鏡でインプラント周囲の組織を見た場合)

健康なインプラントというものは、世の中に1本たりとも存在しな




ことがわかっています。言い換えれば、インプラントを入れる際の診断や埋入術式などのテクニック的な問題でもなければ、インプラントを行う医院の設備や医師のモラルや技量などの問題でもなく、

         インプラントそのものに根本的な、

    避けることのできないリスクがあるのです。


インプラントの経験が豊富な専門医や指導医クラスの先生がいくら
精度の高い診断をし、十分に感染予防対策を講じ、清潔な環境下で正確無比な術式で、最善を尽くしてインプラントを入れたとしても、その部分の組織の健康を絶対に回復できることはなく、むしろ損ねてしまっている、あるいは不健康な、病的な状態でインプラントが維持されている


ということです。このような状況では、かなり入念な術後管理(患者さんご自身のセルフケアと私たちが行うプロフェッショナルケア)を永続的に行っていったとしても、細菌がインプラントと骨の境目から侵入し、必ずといっていいほどインプラント周囲炎(インプラントの歯周病)を起こします。しかしこのインプラント周囲炎は、初期においては自覚症状が全くといっていいほどないため、やがて顎骨骨髄炎(この時点で初めて痛みや腫れなどの自覚症状が出現します)などの重篤な合併症に発展する危険性があります。こうなってしまった場合に、たとえインプラントを除去することができたとしても、周囲の骨をいわばえぐり取るような、より侵襲の大きな手術が必要となり、患者さんの負担はさらに大きなものとなります。また除去後に強い痛みが残るため、入れ歯さえ入れられなくなることもあるのです。インプラントを「第三の歯」、「最新の歯科治療」などと美化して宣伝するところもあるようですが、その実態は所詮固定式の「入れ歯」か、それよりも劣るものに過ぎません。インプラントを埋め込むことは歯科の医療ではなく、いわば歯の「大工仕事」(このことをデンティストリーdentistryといいます)です。血が出ることをやったとしても所詮は「大工仕事」に本質的には何ら変わりはありません。

  こうした理由から、当院では現在のところ、インプラント埋入手術は行っておりません。あごの骨を削って、その中にチタンという金属(所詮自分の歯とは異なる異物)を入れる行為が身体に与える影響は、詰め物やかぶせ物よりもはるかに大きなものがあります。 
  しかしながらインプラントには患者さんにとってあたかも聞こえのいい側面があり、永久的ではないにせよ自分の歯のように咬める場合もあります。また見た目が美しく、審美的には入れ歯よりも優れているかもしれません。特に女性や若い方など、入れ歯に抵抗がある方にとっては魅力的に映るのかもしれません。
  このようなメリット(医学的にみたメリットではありません)、デメリットを十分に理解していただいた上で、それでもなお、患者さんがインプラントをご希望される場合は、当院から、技術面や術前術後管理等の面で信頼のおける、また将来除去しなければならなくなった際にも責任を持って行っていただける、 大学病院口腔外科等の高次医療機関に紹介させていただいております。患者さんから特別にご希望やお申し出がなければ、紹介先は三重大学医学部附属病院口腔外科となります。私が大学病院等の、高次医療機関に紹介させていただく最大の理由は、埋入手術の実績もさることながら、埋入よりも侵襲(=患者さんの負担)の大きい、


(他院で埋入された)インプラント除去手術の実績が豊富


なためであり、言い換えますと、患者さんに将来、起こりうることや、また万が一の場合をも考慮しているからです。参考までに、インプラントがどのくらい「もつ」か、興味深い記事がございますので次に紹介させていただきます。インプラントをお考えの方は、目先の良い点(?)だけにとらわれるのではなく、予めこうした事実も十分にご理解いただいた上で、治療をお受けになるかどうか判断されると良いでしょう。最終的に問題が起きた時に大変な思いをするのも患者さんご自身です。
  ちなみに海外では、患者さんはいずれ何年後かに除去するのを大前提として、日本と同じように数十万円もの高額のお金を払って埋入手術を受けるそうです。


2.インプラントがどれくらい「もつ」か?

  結論から言えば、インプラントは「もちます」。しかしその「もつ」内容が問題であり、長くもてばもつほど問題が生じてくるという事実を、ほとんどの患者さんはご存じないのではないでしょうか。


「きちんと手入れをして使えば、10年」


(広島大学歯学部 赤川教授、読売新聞2007年8月3日)
というふうにもよく言われるようですが、言い換えますと、大学病院と同程度の設備を備えた、実績のある歯科医院で、十分に研鑽を積まれた専門の先生が丁寧かつ精度の高い検査を行い、治療の適応であると考えられた患者さんが手術を受け、その後、患者さんが主治医の指示通りに毎日の管理を怠らずに正しく行って、なおかつ手術をお受けになった歯科医院での定期検診と、専門的なケアもきちんと毎回お受けいただいた状態で、10年目の成功率が90~95%、ということです。皆さんはきっと、この数字だけを見る限り、あたかも素晴らしいデータであると思われるでしょう。
ところがこれは裏を返せば、一本数十万円払って受けた「最新の治療」であっても、10年後以降は保証できません、いつダメになってもおかしくないですよ、ということを意味しているのです。またこの数字も統計の取り方で如何様にも変わりうるものですから、極めてあいまいです。「もつ」ということは、即ちいつかは必ずダメになって除去することが大前提になっています。前述のように、健康な状態で存在しているインプラントは一本もないわけですから、いつかはダメになるのも当然といえば当然でしょうし、「成功率(=治癒率)」などという表現がおかしいことがおわかりいただけるのではないでしょうか。あえて言えば「生存率」といったほうが相応しいでしょう。さらに私が知っている、とあるインプラント専門医の先生でさえも、


「5年もてば上出来ですよ。」


などと豪語(?)していらっしゃいました。これはその先生の技術の問題ではなく、正にインプラントが病気を治していない、言い換えれば医療をしていない証拠であると言えるでしょう。にもかかわらずこの先生をはじめとする大多数のインプラント医は、インプラントを入れる行為(=大工仕事)を医療だと思っていることでしょうから、実に根深い問題であると思うのですがいかがでしょうか?
  さらに注目すべきは、最近、私の母校、鹿児島大学病院歯科手術室では、最近インプラント除去術が増加しているそうです。次の記事は、私の恩師でもある鹿児島大学歯科麻酔科 歯科麻酔全身管理学 椙山 加綱教授が鹿児島県歯科医師会報に寄稿された一文の「インプラントの普及」という項の抜粋です。現在のインプラントが抱える問題点が浮き彫りになっております。是非参考にして下さい。

3.『インプラントの普及』

  さらに問題となるのはインプラントの普及である。最近、鹿児島大学病院歯科手術室でインプラント除去術が増加している。先日、10年前に某歯科医院でインプラント手術を受けたが、最近著しい動揺を認めるようになり、インプラントの除去が必要と言われた74歳の女性が当院を受診した。インプラントが動揺し始めた原因はいろいろ考えられるだろう。しかし、原因が何であれ、インプラントを除去しなければならないことは確かなことである。インプラントを埋入した後、10年、20年、30年経てば、患者は10歳、20歳、30歳、年を取る。インプラントが10年、20年、30年と長持ちすれば、患者は10歳、20歳、30歳、高齢になる。今後、超高齢化社会になり、患者の平均寿命が長くなれば、そして、脳卒中、右片麻痺、パーキンソン病、認知症を合併して寝たきりになれば、患者の口腔清掃状態はさらに悪くなるだろう。そうなると、歯科医師は仕方なくインプラントを除去しなければならなくなってしまう。そのとき患者は超高齢者になっていて、高血圧症、脳卒中、狭心症、糖尿病などの基礎疾患を合併しているだろう。ということは、インプラント埋入時よりもインプラント除去時の方が心臓発作や脳血管障害などが起こりやすくなるということになる。
  一生涯絶対大丈夫なインプラントなら理想的である。しかし、果たして現実はどうだろうか。もちろんインプラントの材質も埋入技術も今後ますます進歩するだろう。しかし、一方で平均寿命は確実に延びている。平成18年のわが国の平均寿命は女性で85歳、男性で75歳を超えた。この間、79歳の女性が来院した。60歳頃にインプラントを埋入したが、その後破折し、今後腫脹と自発痛があるという。口腔内精査の結果、除去術が必要と判断された。 3年前に脳梗塞を発症し、現在抗血小板薬を内服している。昨年、糖尿病と診断された。全身的リスクを考慮して静脈内鎮静法で手術を行ったが、やはり除去術中に不正脈が頻発した。心室性期外収縮や上室性期外収縮が連発した。85歳の男性。20年前にインプラント埋入術を受けたが、今年になってインプラント周囲炎と診断され、除去術を行うことになった。心筋梗塞の既往があり、抗血栓薬、降圧薬、抗狭心症薬を服用しており、心臓弁膜症もある。つまり、


実に皮肉なことなのだが、インプラントが長持ちすればするほど、

そして、それ以上に長生きすればするほど、患者は超高齢者にな

り、合併基礎疾患が増加し、除去術中のリスクは増加するという

ことになる。もしも除去術中に脳血管障害や心臓発作が起こった

ら、いったい誰の責任なのか。



除去しなければならないようなインプラントを埋入した前の歯科医師の責任か、口腔清掃を怠って周囲炎を起こしてしまった患者の責任か、あるいは除去術中に偶発症を予防できなかった歯科医師(麻酔科医)の責任か。最近、中高年のインプラント埋入術が普及している。10年後、20年後、30年後になって、高齢者や超高齢者のインプラント除去術が増加しないように祈るばかりである。

  ここまでお読みいただいた皆さんは、この事実をどうお考えですか?またインプラントをお考えの方は、それでもまだ、インプラントを入れてほしいですか?


4. 最後に

  他院にてインプラントを奨められた方のセカンドオピニオンも受け付けておりますので、お気軽にご相談下さい。セカンドオピニオンとは、ある病気の診断や治療法に関して、別の医師に異なる考え方や意見を聞くことであり、同じような考え方や立場の医師の意見を聞いたり、自分の都合のいい意見や治療法を提案してくれる医師を探すこと、いわゆるドクターショッピングではありません。ですからインプラントを行っている医院ばかり何件もセカンドオピニオン(ドクターショッピング?)を受けられてもあまり意味はないと思われます。なお受診されます際にはその旨、予めお申し出いただくか、問診表等にご記入下さい。またセカンドオピニオン受診につきましては、現在保険では認められておりませんので、自由診療になりますことを予め御了承下さい(詳しくは「料金表(自由診療)」をご覧下さい)。また、当院では、インプラントの除去手術は行っておりません。除去手術は大学病院の口腔外科等の、高次医療機関で受けられることをお奨めいたします。 


  長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。